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マン島の島旗のなぞ
 イギリスの州であり、イギリス領ではないという奇妙な島、マン島の島旗が奇妙なので、その謎を追いかけて、このページを建てることにしました。実はこのページで謎が解けるわけではありませんが。
 マン島のページの一番下にあるアキレスの楯の画像、どれがアキレスだか、よく分かりませんが、その謎をまず解きます。マン島のページにあるのは実は右のアンフォラ amphoraという水瓶の側面の一部です。
 全体の図があったところで謎は解けません。このアキレスの楯の紋章、トリスケル triskeleは、スワスティカ swastika これは、お寺さんの卍、あるいはナチスのカギ十字みたいなものの仲間とも考えられていて、そのスワスティカに関する膨大な考証の一節に、「ギリシャ人はこのシンボルをアポロ崇拝に関係するものと考えている」と述べています。
 私は実のところ、これが一番、マン島のトリスケルを説明するものだろうと思います。マン島での起源のいくつかの説でも太陽神が、関係していますし、別のギリシャ神話でアポロは馬車を駆って天空を駆けるということになっており、マン島のトリスケルの足が拍車をつけているのは、それを表しているのではないか?とこれは私の勝手な想像です。天空を休みなく駆けるについては二本の足では足りないでしょう。しかし、今から概要を記すイリアドの中ではアポロも戦いに参加したりしていて、四六時中いそがしいわけでもなさそうですが。
 そしてアキレスは足が速いので有名な英雄です。その足を象徴した紋章なのでは、というのが私の考えです。ただし、アポロがアキレスを特に気に入っているということはなくて、この絵の舞台となっているトロイ戦争ではアポロはトロイ側についています。ギリシャ時代の神様は、それぞれ、アカイア側、トロイ側と分かれて応援していたのです。
 それでアキレスはどれでヘクトールはどれ?。右の画像のあったアーカンサス大学の学生の宿題らしいページに説明がありました。"paper assignment"とあり、ここの記述は宿題の論文を書くにあたっての参考のようです。つまり出題でしょう。
 アキレスがヘクトールの死体を引きずってパトロクロス(アキレスの親友でヘクトールに殺された)の墓を通り過ぎるところ、とあり、彼は右の戦車に向かって踏み出し、門のポーチに立つプリアム Priamとヘクバ Hecuba(殺されたヘクトール王子の両親)を振り返っている。プリアムは仮面みたいなのを被っています(涙を隠すため?)。ヘクバは手を額にあてて嘆いています。ヘクトールの死体は戦車の後ろに足から引きずられています。パトロクロスの墓は白い塚で示され、その上にはパトロクロスの亡霊がいます(中央の頭のまわりが白くぼけているのがそのようです)。髭のある蛇が墓に這い入っています(右下のようです)。戦車の前にはイリス(使いの女神)が左に向かって走っています(これが一番目立つので最初はこれがアキレスかと思いました。)。
となっています。
 しかし、これだけ説明されてもまだ、よく分かりません。このページには肝心の部分の拡大図があります。それが左の絵です。これで、プリアムとヘクバがどの人なのか、何よりもヘクトールの死体がどこにあるのかはっきりします。アキレスは親友を殺したヘクトールを憎さあまって戦車につないで引きずり回したのです。それでも死体に傷がつかないのはアポロが守っているからです。
 いったい何でこんな場面になったのか興味が出て今度はホメロス(英語では Homerになるようです。)のイリアド Iliadを探して、既にリンク切れになっていましたが、概要があったので、紹介しておきます。多分、Wikipediaに示されているリンクで得られるものと同じだと思いますけど。

イリアド

 まず、イリアドという題名ですが、その意味まではさかのぼれない地名のようです。iliumというのが元の地名のようで、ローマ時代には illionと呼ばれていたようです。舞台となるトロイですが、これは人名から来た地名のようです。Trosという人物が iliumの地に都市を作り、彼の名前をとってトロイと名付けたようです。ですから、トロイというのはイリウムという地域の中のトロイの町だけに限られた名前でしょう。戦場はイリウムの地の全体で行われます。イリアドというのはイリウム物語という感じの題名のようです。トロイ戦争はギリシャ時代の神話か現実かはっきりしないところがありますが、史実をもとにホメロスがギリシャの神々を絡み合わせて物語りにしたものでしょう。そのイリウムだか、トロイだかは現在のトルコに遺跡があります。以下に紹介するイリアドは日本語版 Wikipediaのイリアスとは微妙に違います。各国語によって使った資料が違ったりするようです。

トロイ戦争の発端
 ゼウスとポセイドンは海の美しいニンフ・テティス(しばしば海の女神と呼ばれますが、ポセイドンの方が上です)を我が物にしようと思いますが、「彼女の産む子は、その父を超えるものになるであろう」というプロメティウスの予言があって、どちらの神も思いとどまり、彼女を人間に嫁ずければ、人間以上にはならないと、ペレウスの妻になるよう運命づけます。ペレウスとテティスの間に産まれた子がアキレスです。テティスは生まれた赤子を不死の川 ステュクス Styx(三途の川みたいなものです)に漬けます。それが頭から逆さまに漬けたものか、カカトだけが漬からず、後に禍根を残します。
 そのテティスの結婚の祝いですが、神々はみな招かれたのですが、「不和の神」エリスだけは招かれませんでした。この侮辱に怒った彼女は黄金のりんごを「最も美しきものに」と言い添えてテーブルの上におきます。そして名乗り出たのがヘラ、アテナ、アフロディテです。しかし、神々も三人のうちの一人を選べば、あとの二人の怒りを買うことを恐れて意見をいいません。とうとうゼウスは羊飼いの子・パリスに選ぶよう命じます。そのパリスは、その母の夢見の占いからトロイを滅亡させると預言され、直ちに殺されるところだったのが、誰も殺せず、羊飼いに命じたのですが、彼も殺せず育てていたのです。かくてアテナはパリスに戦いの力と智恵を、ヘラは権力を、アフロディテは世界一の美人を約束します。そしてパリスはアフロディテに林檎を差し出したのです。
 世界で一番美しい女性といえば、ゼウスがスパルタ王妃のレダに白鳥になって近づいて産ませたヘレネでした。当然、求婚者が殺到します。アガメムノン、アヤックスなど、オデッセウスもですが、とにかく錚々たる面々です。父王は誰かを選べば、攻撃の的になることを恐れますが、オデッセウスの智恵で、全員がヘレネとその夫を守ることを誓い、スパルタのメネラウスに嫁ぎます。ヘレネの妹のクリテムネストラは、その兄のアガメムノンに嫁ぎます。
 アフロディテの計らいでトロイの王子として認知されたパリスはスパルタに赴き、まんまとヘレンをトロイに連れ帰ります。そこでメネラウスはかつてのライバルたちに今こそ誓いを守れと檄を飛ばし、軍勢が整ってトロイ攻めをしますが、9年たっても決着はつきません。

出陣までのゴタゴタ

 9年の戦いに兵士は倦み、戦意阻喪します。あまつさえアカイアには疫病がはやります。実はアカイア側、つまりギリシャ側の総大将・アガメムノンは、その前の遠征で、トロイ側の町で美しい乙女・クリセイスを拐かして来たのですが、その娘というのがアポロの神官で、娘を帰すよう頼むのですが、アガメムノンは拒絶し、神官はアポロに祈って、アポロが神罰を下していたのです。
 アカイア軍はこれを知らなかったのですがアキレスが諸王を集めて評議し、透視者 カルカスに原因を尋ねたところ、アガメムノンがクリセイスを返さないからである、と託宣します。アガメムノンは激怒し、返すべきだ、というアキレスと激論になります。アガメムノンはアキレスがやはりこの前の遠征で獲得したブリセイスを寄越せば、と言い、アキレスもカンカンになり、すんでのところで女神・アテネが間に入ります。
 落ち着いても怒りの冷めぬアキレスは、もしアガメムノンがブリセイスを奪えば、もはやアカイア軍についてトロイ人とは戦わないと誓います。この場は、年かさのネストールが宥めて、評議は一応お開きになります。アガメムノンはオデッセイを使いとしてクリセイスを返し、ブリセイスを連れてこさせます。アキレスは怒り狂って母なる生みの女神・テティスに、テティスはゼウスに物事を正すよう願います。ゼウスは何とかしないと妻のヘラが、これについて口うるさいので考えさせてくれと答えます。事実、ヘラはテティスの言うことを聞けば結果的にトロイ側を利することになると、ゼウスに当たりはじめ、ゼウスも力で対抗する夫婦げんかになります。ヘパイストスはゼウスに立ち向かっても無理、無理と口を出すのですが。ヘファイストスはヘラの息子ですが、父はゼウスではありません。不義の子かというとそうでもないようで、ゼウスが一人でアテネを産んだので怒って自分一人で産んだんだとか、いや、ヘラの方がゼウスより年上で、アテネがゼウスの頭の中で産まれたときはヘファイストスがハンマーで頭をぶち割ったんだとかの話があります。
 ゼウスはアキレスの頼みを聞くことにしますが、あからさまではなく、まず正夢ではなく嘘夢(これも下級の神の仲間でしょう)を呼び出します。そしてアガメムノン王のところに行って、「今、トロイ軍を攻撃すれば間違いなく勝てる」という夢を見させよ、と命じます。
 嘘夢は知将・ネストールの姿を借りてアガメムノンの前に現れ、このメッセージを伝えます。アガメムノンはアカイア軍の評議で、この夢のことを話し、人が人であるだけに力を得てトロイ攻めの準備をします。ここでアガメムノンはアカイア軍の勇気を試すため、ちょっと余計なことをします。
 全軍の戦いの備えが整ったところで急に言い出したのが「この包囲作戦は長きかかりすぎた。九年もだ。みんな家に帰るべきだ」という言葉です。これを訊いてホームシックになっているアカイア軍は皆、それぞれの船に戻って帰る準備をします。そこでアテナがまた現れます。彼女はリンゴの一件で、アフロディテに対抗してアカイア軍に肩入れしているのです。
 彼女はオデッセウスにアカイア軍の勇気を鼓舞するよう促します。そこで彼は船から船へと走り回って兵士たちに「お前たちの故郷の名誉にかけて、お前たちの死んだ戦友にかけて、卑怯なまねはするな! 戦線に戻って戦いに備えるのだ!」と檄を飛ばします。こうして逃亡をくい止めたあと、トロイ軍に戦争を仕掛けるまえに、ゼウスからの宣詞に「トロイを征服するには10年を要するであろう」とあったことを思い起こします。そこで、戦勝を祈念して犠牲を捧げ、アカイア軍は戦うばかりとなります。
 イリアドの作者・ホメロスは、アカイアの王侯たちの出身がどこで、どれだけの軍勢を持ち、ときには年代記までつけて、百科事典まがいの記述をしているんだそうです。その中で明らかになることは、王侯の中でもアキレスが武術においても男子としても一番で、次が大アヤックス Ajaxであるということです。
 こと、ここに及んで、アイリス(使いの女神で虹の女神でもあります。)はトロイ派で、トロイ王・プリアム Priamのところに行って「間もなく攻撃される」と告げます。かくてトロイ軍は戦いの備えて、プリアム王の王子・ヘクトール Hektorの軍とエーネアス(Aeneas アフロディテとアンキセス Anchisesとの間の子で、プリアムの従兄弟に当たります。多分、アンキセスはプリアムの叔父なのでしょう。)の軍の二つに分けて待機します。
 ヘクトールが率いるのはトロイ軍、エーネアスが率いるのはダルダニアン軍 Dardanianです。三銃士のダルタニアンを思い出させます。Dardanianは研究社の辞典ではトロイ人、勇敢な快男児とあります。ホメロスはトロイ人とは区別しています。場所的にはダーダネルス海峡 Dardanelles付近がそうでしょう。ここでホメロスは、この両軍のアカイア軍と同様に顔ぶれを記しているそうです。

パリスがカッコつける

 トロイ軍とアカイア軍は戦場にまみえます。トロイ軍は雄叫びを上げ、アカイア軍は沈黙して攻撃します。お互いに決着がつかぬまま、アレクサンダー(ヘレンを連れ出したパリスは今はこういう名前になっています。)はトロイの最高の戦士として進み出てアカイア軍の誰とでも一騎打ちしようと呼ばわります。「誰であれ、一騎打ちで私を負かせばヘレンはそいつのものだ。そして彼女をめぐっての戦いの理由もなくなるというものだ。」(パリスは必ずしも柔弱ではなかったようです。自殺したいくらいに嫌気がさしたわけでもないでしよう。) この挑戦に、妻を奪われたメネラオスがただちに進み出て挑戦を受けます。ところがパリスは恐れをなして陣地に逃げ帰ります。(やっぱり柔弱モノでした。)ヘクトールはこの卑怯の振る舞いに激怒します。そこでパリスはとって返してメネラオスに立ち向かおうとします。ここでまた、アイリスが出てきてヘレンにこのことを伝えます。今はメネラオスを懐かしみ、故郷に焦がれているヘレンは、戦いを見ようと走り出ます。ヘレンはやはり見物に出てきたプリアムと出会います。プリアムは「このことで貴女が責められることはない、どちら側が血を流しても自分を責めてはいけない」と諭します。そしてヘレンにアカイア軍の名だたる人物を教えます。アガメムノンは勢力があるとか、オデッセウスは智恵があって奸計に長けているとか、アヤックスは偉大な戦士だとかです。ヘレンは兄弟のカストール Castorとポルックス Polluxが来ていないのに気づき、自分のことを恥じて来なかったのだろうと落胆します。
 ホメロスはここで、実はカストールもポルックスも死んでいることをヘレンは知らないのだと書いているそうです。
 かくして、アガメムノンとプリアム、それからオデッセウスは一騎打ちの定め書きを記し、約束が守られるよう犠牲を捧げて封印します。パリスとメネラオスはそれぞれ、念入りに武具を身につけます。ついにすべては整い、戦いが始まります。両戦士は離れて立ち、くじで最初にヤリを投げる方を決めます。最初はパリスが投げることになります。彼が投げた槍はメネラオスの楯で防がれます。次にメネラオスが槍を投げ、これはパリスの楯を突き抜けますが、パリスは身をかわして傷は負いません。それでは、と、メネラオスは剣をとって突き進みますが、刃がカブトにあたって砕けます。
 かくして押しに押しているメネラオスはカブトを掴んでアカイア軍の方に引きずって行こうといますが、ここでアフロディテが兜のあごひもを切れさせます。(アフロディテはこのくらいの念力はあるのです。彼女が出てきたのでは戦いが興ざめになります。) またもメネラオスはパリスを捕まえるところでしたが、アフロディテがパリスを彼のベッドにテレポートしてしまいます。で、結果はメネラオスの方が明らかに優勢だったのですが、決着はつかなかった、ということになります。
 それからアフロディテはヘレンのもとに行きます。アフロディテは老女の姿で「パリスがベッドで待っているから行きなさい」と言います。ヘレンはアフロディテが姿を変えていることを見透かします。でもって怒りがこみ上げてきて、「そんなにあの人のことがお好きなら、ご自分でいらっしゃれば」と言い返します。アフロディテは「そうしないと、もっと血を見ることになるのよ」と脅し、ヘレンは嫌々ながらしたがいます。
 ヘレンはパリスの寝室に行き、「臆病者、メネラオスの男ぶりには及びもつかない」と、わめき散らします。パリスは静かにしてベッドに入れと命じます。なぜか彼女は従います。(どうしたことなんでしょう。夫婦げんかによくあるパターンの一つなんでしょうか?。)
 戦いの方はというと、一騎打ちの決着はつきませんでしたがアガメムノンは「明らかにメネラウスが勝者だ」としてヘレネを返すよう要求します。一応は停戦状態です。

神々の住処・オリンポスの山と戦場

 ゼウスはヘラがトロイを滅亡させようと思っているのをからかいます。だけど彼女はかたくなにリンゴの一件を根に持っています。そして、改めて戦端を開くよう、アテナに行かせてトロイ軍が停戦協定を破るようし向けるようにしようと持ちかけ、ゼウスも承知します。(ゼウスはこそこそと浮気はしますが、正面切ってはヘラに逆らうことはないようです。)というわけで、アテナはトロイ軍のパンドロスという弓兵をたきつけてメネラオスを射させます。もちろん、アカイア側は大いに怒り、戦いの再開となります。
 アガメムノンは兵を見回り、戦意の高い兵士は激励し、グズグズしている兵を叱咤します。アガメムノンはオデッセイが遅れをとっていると思って叱り、口論になりますが、アガメムノンの方が謝って治まります。それから真剣勝負になります。
 ここでホメロスは戦闘の模様をことこまかに描写していています。特に両軍の戦死の状況については、「胸を槍が突き破り、」とか、もっと身の毛がよだつような死に様について描写しているそうです。特に目立つ人物に関してというわけではなくて、ただただ、乱戦の描写をしているのだそうです。
 戦いは激戦になります。その最中、アテナがアカイア軍の勇将・ディオメデス Diomedesのところにきて祝福し、大力とこの戦いでの勝利を授けます。そしてアレス Aresには「二人とも人間どもの戦いには手を出さないようにしましょう」といって、両神とも、その場を去ります。(アテナは食わせ物です。アレスもゼウスとヘラの間の子で軍神ですが、かれがアフロディテといい仲だというので、離そうとしたわけです。自分のことは棚に上げて)ディオメデスは、多数のトロイ軍兵士を滅多切りにします。そして彼が傷つくと、アテナがやってきてチャッカリもっと力を与えます。(ギリシャの神々は別に正義の味方を標榜しているわけではないので、これでいいのです。) こうしてディオメデスはメネラオスを射たパンダロスもころし、すんでのことにエーネアスも殺すところでしたが、アフロディテが自分の子は守ります。怒ったディオメデスはアフロディテに打ってかかって、あろうことか彼女を傷つけます。
 傷をおったアフロディテはオリンポスに逃げ帰って母のディオネに訴えます。「女神ともあろうものが、ただの命に限りある人間に傷つけられるなんて不公正だわ」。ディオネは娘に「神々だつて人間どもにやられることだって再々あるのよ」「だけどね。男であれ、女であれ、人間が神に悪いことをすれば最後には、その代償を払うことになるのよ」と宥めます。
 戦いの場にもどると、ディオメデスは今度はエーネアスを連れているアポロに撃ちかかります。ディオメデスはアポロに三度、突き掛かり、ついにアポロは「もう一度かかってきたら、全身の怒りに立ち向かうことになるぞ」と警告します。これでディオメデスはちょっと覚めてアポロはアフロディテとは比べものにならない危険な神だ、と悟り、トロイ軍の不死でない軍兵の攻撃に向かいます。
 見ると、アレスはアレスでトロイ軍に助力してアカイア軍を船の方に押し戻そうとしています。そこでまたアテナがディオメデスに力を与えてアレスに傷を負わせて、戦場を去るようにし向けます。アレスはゼウスのところに行って不平を述べますが、ゼウスは冷たく「それはお前が招いたことだ」と取り合いません。(アテナは勝利の女神、一方、アレスは戦いの神、勝利の神の方が上らしいです。

戦場での出来事

 メネラオスはトロイ軍の若い戦士 アドラストス Adrastosを捕らえます。メネラオスはこの若い男子を助命してやろうとするのですが、そこにアガメムノンがやってきて、「今は哀れみをかけるときではないだろう。こっちはトロイを破壊して滅ぼすためにきてるのだ」と焚きつけます。メネラオスも返す言葉がなく、アドラストスを殺します。
 一方、ディオメデスはトロイ軍のグラウコスという戦士と戦場で出会い、戦うのではなくてお互いの家系を名乗り合います。すると、彼ら二人の家族は、過ぎし日々には親しい間柄だったことが分かり、お互い、戦うことはやめます。二人は甲冑を交換します。(ディオメデスの方が得しています。彼は金の甲冑を得て、グラウコスの方は青銅のやつです。)とにかく、二人は別れます。
 ヘクトールは戦いに必要なこまごました用を足しにトロイに戻り、最後に自宅に戻りますが妻も息子も居ません。女中がいうにはヘクトールの「奥さんのアンドロマケ Andromacheと息子さんは戦闘を見物に城壁に行っていて、何が起こるか心配で心配で」と言います。ヘクトールはそこに行って妻と子を見つけだします。アンドロマケは泣き出してヘクトールに「戦場に戻らないで」「近所の男はみんな殺されてしまったわ。ヘクトール、貴方がいなければ、あたしには何にもなくなってしまう」とうったえます。彼女はヘクトールに取りすがります。しかしヘクトールは「私はただ、トロイの町を守るためにしなければならないことをするだけだ。町を守ることでお前も守ることになるのだから」 そして、こうも言います。「お前を囚われの女性として奴隷働きや陵辱から守るためには死することも恐れない」と。それから幼い息子を抱き上げ、「大きくなったら私よりも偉大な男になって、トロイを守る役目を私よりも立派に果たすのだよ」と行く末を祈るように語りかけます。次にヘクトールは妻の方に向き直って「恐れることはない。これが私の死に時だったら死ぬこのになるかも知れないが、それについては知りようがないことだ」と語りかけ、妻を置いて、パリスと合流して戦いに向かいます。
ヘクトールとアヤックスの一騎打ち

 アポロとアテナはヘクトールが戦いを止めさせてアカイア軍に挑戦状を突きつけるよう仕向けます。「アカイア軍の誰であれ、私と一騎打ちで戦おうではないか。もし私が負けたら死体だけを家族に返してくれれば、甲冑はそいつのものだ!」 アカイア軍はしばらくためらった後、この一騎打ちに挑むものが多数、現れて、くじ引きで 大アヤックスが一騎打ちの権利を得ます(アカイア軍にとっては願ったり叶ったりでした。彼はアキレスに次いで最強の戦士でしたから) この戦いは劇的な結果とは行きませんでした。双方とも決着をつけることができぬまま、夜のとばりが降りてきて、続けることができなくなったためです。
 その夜、パリスの提案でアカイア軍に対して「パリスがメネラオスから奪ったものはヘレンを除いてすべて返そう。それに加えて、戦いを止めるためにパリス自身の財宝も渡そう」と申し入れします。プリアムはもう一つ、「両軍の戦死者をしかるべく火葬するために休戦しよう。」と付け加えます。
 アカイア軍はパリスの申し入れははねつけますが、死者を弔うための一時休戦には同意します。かくて、両軍は死体を焼き、しかるべく葬送を執り行います。それが終わるとアカイア軍は軍船を守るために壁と塹壕を築きます。オリンポスの山ではポセイドンが、この壁は神々への供物もせずに作ったと、怒っています。

ゼウスの決定

 オリンポスではゼウスが神々を集めて命令します。(彼はそれだけの権力をもっているのです。どれほどの重きがあるかは別ですが。) 「この戦いに、これ以上は手を貸してはならない」と。それからゼウスは、アキレスに花をもたせるために、まずトロイ軍に勝たせて彼がいないことには勝利できないと思わせようと決定します。でもってアカイア軍に向かって雷を投げつけます。アカイア軍は逃げまどいます。(ゼウスは言うことと為すこととは違うようです。権力者にはよくあるパターンなのでしよう
 ヘクトールはゼウスが味方についていることを察知します。彼はトロイ軍をゼウスが後ろ盾についていると励まして前進させ、乗馬にも言葉をかけます。トロイ軍は進撃して、あわやアカイア軍を船まで押し返そうというところまで行きます。するとヘラがトロイ軍を奮起させるよう、アガメムノンに力を与えて、彼は部下を奮い立てます。今度はゼウスがサインを送ります。ワシが小鹿を掴んでアカイア軍の中のゼウスの祭壇に落とします。ワシはゼウスのシンボルなのです。これを見てアカイア軍は勇気を得ます。そして押し戻して進撃しますが、またも戦いはトロイ軍有利に傾きます。
 これを見たヘラとアテナは降りていってアカイア軍を助けようとしますが、ゼウスが阻みます。ヘラは、ゼウスに食ってかかります。彼女はそれがアキレスを際だたせようとしてやっているのだろうということは分かっているのですが。ゼウスは奇妙な予言をします。「猛々しきヘクトールよ。ペレウスの息子を目覚めさせるまで戦いを止めてはならぬ」と。(ペレウスの子とはつまりアキレスです。アキレスはブリセイスの一件でつむじをまげて、この戦闘には加わっていないのです。)そのとき、船上でヘクトールはパトロクロスと渡り合っています。(はアキレスの親友です。
 夜が来てアカイア軍は壊滅をまぬがれます。ヘクトールは兵士に「火を焚いてアカイア軍が逃げ出さないように監視するのだ」と命じます。

アキレスへの使者

 アカイア軍、アガメムノンが退却を言い出すにおよんで意気阻喪します。ここでディオメデスが怒鳴りつけて踏みとどまります。それではと、ネストールが「この戦いに勝つためにはアキレスが必要だ」と言い、では、とアガメムノンは「アキレスにが戻ってくれば様々な恩賞を与えよう」と申し出ます。そこで、オデッセイと大アヤックス(大と小とがいるのです。)、アキレスの育ての親でもある老・フェニックスがアキレスのところに使者として送られます。
 アキレスの陣地に行って彼らは丁重にもてなされ夕食も出されます。食事が終わるとオデッセウスが雄弁にアガメムノンの申し出を伝えます。アキレスはしかし、まだ怒っていて、アガメムノンの、非礼の数々を述べ立てます。また、彼の母たるテティスが「ここにとどまって戦えば、栄光は得られるだろうが、故郷に戻れば長きにわたっての繁栄が得られるでしょう」と言っていることも教えます。フェニックスが涙ながらに、アキレスに訴えて長話しを始めます。彼はアキレスのように偉大だったメレアゲル Meleagerという王が、怒りのために国人のために戦わずにどうなったか、を引き合いに出します。「みんながメレアゲルに戦いに出るように頼んだのに、彼は敵が城門をうち破ろうとして、妻がお願い、と訴えるまで戦いには出なかった。彼は見事、敵を撃退するが、その働きは遅きに失して栄誉も得られなかった」という話、フェニックスは「彼と同じ轍を踏むな」と説きます。
 アキレスはそれでも、「アカイア軍の船が燃え上がるもでは戦うつもりはない。」と、かれらを追い返します。というわけで、使者達はフェニックスだけがアキレスのもとに留まり、悪いニュースを持って空しくアカイア軍に戻ります。それでもディオメデスは彼らをねぎらい、それぞれに明日の戦いに向けて眠りにつきます。

夜襲

 アガメムノンとメネラオスは戦いのことが頭を離れなくて眠れず、真夜中に出会います。そして、ほかの将官を起こして評議を開くことにします。全員が揃うとネストールが、「誰かが密かにトロイに送り込んで奇襲をかけよう。この奇襲を引き受けた者には栄光とすべてのアカイア軍からの贈り物がなされよう。」と提案します。ディオメデスが真っ先に志願し、オデッセウスを副官に指名します。
 この部隊が陣地を出発すると、アテナが、自分のシンボルであるシラサギを送ります(吉兆なんでしょう。) トロイ軍の陣地ではやはりヘクトールが隊長を集めます。彼らも不安で眠れなかったのです。ヘクトールは、これもやはり褒美を約束して奇襲部隊を送ることを提案します。ドロン Dolonという、これも名のある戦士が褒美なるものを欲深く確かめてから名乗りを上げます。
 オデッセウスとディオメデスは両軍の陣地の間の真ん中でドロンとばったり出会って捕らえてしまいます。そしてドロンは「トロイ軍は歩哨を立てている間は無防備になっていて、特に攻めやすい」と味方を裏切ります。ディオメデスはこれを聞いてケタクソ悪いとばかりにドロンの首をはねます。
 このドロンの情報をもとにトラキア軍を奇襲して多数のトラキア兵を斬り殺し、トラキア王の美しい馬まで分捕ります。(トラキアは今のブルガリアを含むエーゲ海北部の沿岸でしょう。そのころのギリシャは相当に広かったようです。トロイ軍は、ダルダニアン Dardanianとかトラキア Traciaなどの連合軍です。アカイア側もスパルタとかミュルミドーンの連合軍で、名のある戦士はそれぞれ王とか領主です。)そしてアカイア軍の陣地に意気揚々と戻ってきます。ネストールは馬たちを見て「これは神の贈り物に違いない」と嘆賞します。オデッセイが何が起こったのかを説明し、みんな「運のいい奴らだ」と大笑いします。かくして彼とディオメデスは任務を果たし、この戦陣での唯一の入浴と海に浸かって汗を洗い流して香油を塗ってアテナに幸運を謝してワインの捧げ物をします。

戦闘開始

 翌朝はアガメムノンが(ゼウスがそうさせたらしいのですが)アカイア軍を叱咤激励して、戦いに備えさせます。自分もたいそう立派な鎧を身につけます。(ホメロスは、それがどんなだったか、ことこまかに書いているそうです。) ゼウスは来るべき戦いでの流血の前兆として、朝露を赤く染め、戦場には気味の悪い風音を鳴らします。
 かくて戦いははじまります。それぞれの戦士たちの戦いぶりが記されています。まず、アガメムノンは天性の戦士であるかのように戦いますが、傷を負って戦場から退きます。オデッセウスとディオメデスが踏みとどまって、際だった働きをしますが、ディオメデスが負傷してオデッセイを残して退きます。オデッセウスはなおも単騎でトロイ軍を撃退しますが、ついに傷を負って助けを呼びます。今度は 大アヤックスが踏み込んできて名だたるトロイ戦士をなぎはらいます。ヘクトールがトロイ軍を立て直しに駆けつけます。彼はアヤックスが良い戦士と知っているので避けますが、アヤックスは結局、追ってくるトロイ軍を防ぎながら退却を強いられ、アカイア軍の他の軍勢が救援に向かい、戦いはたけなわになります。
 アキレスは自分の船から、この有様を眺めています。ふと、ある負傷したアカイア兵が気になってパトロクロスに誰か調べに行かせます。パトロクロスは行って見ると、ネストールが負傷者を連れ帰るところでした。ネストールはパトロクロスにアキレスに戦いに加わるよう説き伏せてくれと頼みます。「アキレスの良き相談役になるのがお前の務めだぞ」と。パトロクロスは承知してアキレスのもとに馳せ戻りますが、途中でアカイア軍の負傷兵を無事に医務班に届けるのを手伝って手間取ります。

トロイの壁

 神々の怒りを買ったトロイの壁ですが、トロイ軍は、このために馬が使えないので壊しにかかります。ヘクトールをはじめ大勢のトロイ兵が壁をはがそうとします。ゼウスはここで、例のゼウスのシンボルであるワシを送って前兆を報せます。ワシはまだ生きている赤い蛇を掴んでいますが、その蛇がワシに噛みついてワシは蛇をトロイ軍のただなかに落とします。ポリダマスというトロイの戦士がこの前兆を「この壁をうち破ってはならない。力を尽くして仮に破ったとしても、あとには大勢斬り殺されたものが残ることになる。ちょうどワシが蛇を置いて飛び去ったように。」と読み解きます。しかし、ヘクトールは、この前兆とポリダマスの謎解きを迷信だとばかりに意に介しません。「神の意志はただ一つ、男はその国のために戦わなければならないということだ」と言い放ってトロイ兵を立ち向かわせます。
 ゼウスが騒々しく風を起こして動きを隠す中、トロイ軍はアカイア軍の壁を破ろうとしますが、アカイア軍は精力的に反撃してきます。大アヤックス、小アヤックスとも壁の上に仁王立ちになって叱咤激励します。ついにリキア王・サルペドン(Sarpedon ゼウスの子の一人です。)が壁に穴を開けます。そしてヘクトールは(ゼウスに力を与えられて)大きな岩を抱えてきて壁の門をうち破り、凱歌を上げて踏み越えていき、トロイ軍が続いてまったくの乱戦になります。

 ゼウスは今度は戦いの場を去り、ほかのところで何が起こっているか見回して、今や、どの神も介入していないことを確認します。しかし、ポセイドンはゼウスがトロイ軍に肩入れするのを見て大いに怒り、アカイア軍が気の毒になり、海の宮殿からまかり出てアカイア軍に助力に向かいます。姿は変えてですがトロイ軍を叱咤激励して立て直し、人間の壁を作らせてトロイ軍を防ぎます。戦闘はさらに続き、乱戦の中でアカイアの戦士・アムフィモコス(ポセイドンの孫です。)が戦死します。ポセイドンはこれに怒って、またも加勢に駆けつけ、アカイア軍の中を激励して力を与えて回ります。
 その後に続くのは戦い、また戦い、大勢の死者、それに対する復讐、最初に戦死した戦士の死体の確保をめぐっての、さらなる死者と延々と続きます。結果的には戦闘はアカイア軍有利に傾き始め、トロイ軍を押し返し始めます。 ポリダマスは、それ見たことかとヘクトールに「軍勢がちりぢりに散らばってしまっている。まとめなければ」と促し、ヘクトールも認めて軍勢の中に分け入ってまとめにかかります。ようやくトロイ軍をまとめたところで、ヘクトールとアヤックスが、お互いに「もうすぐお前の方は負けて壊滅だ」とやり合います。そして、それぞれに軍勢を立て直した両軍はぶつかり合います。

戦場の外

 ネストールと負傷して戦陣を離れたオデッセウス、ディオメデス、それにアガメムノンの三人は戦況をハラハラして見ています。アガメムノンはだいぶ気落ちしたようすで、「こんなイリウムなどで野たれ死にするよりは船の錨をあげて退却にかかろう」と提案します。オデッセウスは「それは馬鹿げてるし臆病者のすることだ」と反対です。ディオメデスは武人のこの人らしく「負傷してはいるが出ていって戦いでベストを尽くそう、少なくとも他の者の励みにはなる」と言います。というわけで三人が戦場に向かっているとポセイドンがやってきてアガメムノン、それからアカイアの全軍にも勇気を吹き込みます。
 オリンポスの山ではヘラがポセイドンによって有利になったアカイア軍をさらに押し立てる方法を考えつきます。彼女は湯浴みをして美しく装い、アフロディテをごまかして魅惑のガードルを手に入れてゼウスを誘惑にかかります。仕上げに睡魔(そこらじゅうに居る下等な神様のようです。)を呼んで、彼女と添い寝しているゼウスを眠らせるよう命令します。
 計画はうまく行き、ヘラはゼウスの気を惹きます。ゼウスはすっかり欲情して二人して横になります。そこで睡魔が約束通りにゼウスを眠らせます。それから睡魔はポセイドンのところに行って事の次第を話します。そこでポセイドンは安心してアカイア軍を全力でトロイ軍に立ち向かわせます。

ゼウスの予言

 ゼウスが目覚めて事の成り行きを知り、断然怒ってヘラを怒鳴りつけますが、彼女は「私は戦いのことには関わってないわよ」とシラを切ります。ここでゼウスはちょっと念の入った予言をします。「トロイ軍はアキレスの船まで攻め寄せるであろう。そうしてアキレスはパトロクロスを戦場に送り込むことになろう。ヘクトールがパトロクロスを殺すことになり、アキレスはパトロクロスの復讐にヘクトールを殺すであろう。ヘクトールが死ねばアカイア軍はトロイ軍をトロイまで押し返すことになろう。」 これを聞いてヘラはまあいいか、と引き下がります。
 それからゼウスはアイリスをポセイドンのところに使いに出し、「戦いに参加してはならぬ」と伝えさせます。この伝言にポセイドンは「俺は力では兄に劣るかも知れないが、同格のはずだ、命令を受ける筋合いはない」と大変に怒るのですが、しぶしぶなからも兄に従います。
 ゼウスはもう一方で、戦いの流れをトロイ軍側に傾けるよう、アポロをヘクトールのところに送り込んで彼に力を与えるよう命じます。アポロは行ってアヤックスに投げつけられた岩石が頭にあたったヘクトールに精気を吹き込みます。そしてアポロがトロイ軍の先頭に立って戦い、神の援軍を受けてトロイ軍は勇気百倍になります。
 アカイア軍がトロイ軍の残党は?と見ると、特にヘクトールなどは、たいていの男なら致命傷を受けたはずなのに元気でぴんぴんしていて、どうしたことかと非常に恐れます。アエトリア Aetoliaのトアス王 Thoasは精鋭を残してトロイ軍をできるだけ防いで、本体は船を守るために退却しようと進言します。でもって実際そうするのですが、精鋭軍も押しまくられて船の方に押し戻され戦闘は激化します。パトロクロスはトロイ軍が船まで攻め寄せたのを見てアキレスのところに救援を求めて走ってゆきます。このあとしばらくはアヤックスの船から始まった戦闘の場面になります。
 ゼウスはまだヘクトールを守っています。ヘクトールがアカイア軍の船に火を放つのを待っているのです。そうやってパトロクロスが戦闘に引っ張り出して、前にゼウスの予言した一連の筋書きを実現する引き金にしようと考えているのです。そしてついにトロイ軍は、アカイア軍の船の一隻に火を放たんとするところまできます。

パトロクロスの戦死

 パトロクロスはアカイア軍が総崩れになるのを見て、アキレスのところに戻り、「もしアキレス自身が戦いに出ないのなら、鎧を貸してくれ、そうすればトロイ軍はアキレスが戦いに加わったと思うだろう」と言います。アキレスは承知しますが、パトロクロスに一つ警告します。「トロイ軍を船から追い払うだけにしろ、決してハヤってトロイ軍をトロイまで追うな!」 と、その時、ヘクトールがアカイア軍の船の一つに火を放ちます。アキレスはこれを見て、パトロクロスに「早くヨロイを着ろ」と促します。
 ホメロスはここでアキレスに付き従ってきたミルミドンの部下について記述しています。ミュルミドーン Myrmidonというのテッサリア人の勇士でアキレスの配下ですが、相当に手荒な兵隊だったようで、研究社の辞書には『命令に盲従して不埒な行為を行なう』手下という意味も記されています。この辺の地名の参考に紀元前7-8世紀の地図を探してきました。
 アキレスはそのミルミドン兵にパトロクロスに従って戦うよう戦訓を述べます。彼らが出立したあと、アキレスはゼウスにパトロクロスの無事を祈ります。
 アキレスのヨロイを着たパトロクロスに率いられてミルミドン兵が出撃します。トロイ軍はヨロイを見てパトロクロスをアキレスと思い算を乱します。パトロクロスとミルミドン兵は敵兵を船から追い払い、パトロクロス自身も大勢を殺します。そしてサルペドン Sarpedonというゼウスの息子の挑戦を受けて、ゼウスの予言通り、彼を殺します。サルペドンの死体をめぐって戦いになり、決着がつきませんが、ここでゼウスは息子の死体が辱めをうけず故郷のリキア Lyciaで名誉ある葬礼を行えるよう、アポロに死体を連れ帰るよう命じます。それからゼウスはパトロクロスがトロイ軍をもっと殺してトロイの町まで押し戻すよう、もう少し生かしておくことにします。ゼウスはヘクトールとトロイ軍が退却するようにし向けます。パトロクロスはアキレスの警告を忘れてトロイ軍を追ってトロイの町の城壁まで追っていきます。
 パトロクロスは多勢を殺しますが、運命の時が迫ります。アポロが彼のカブトをぶちのめして方向を見失います。そのスキにユウフォルボス Euphorbosというトロイ兵が槍で突きますが、まだ息はあります。そこにヘクトールが進み出て、とどめを刺します。ヘクトールは凱歌を上げて誇りますが、パトロクロスは「自分を殺したのはヘクトールではなくてゼウスとアポロで、お前も間もなく死ぬことになる」と告げます。

 今度はパトロクロスの死体をめぐっての戦いになります。ヘクトールはパトロクロスの死体からアキレスのヨロイを剥がして身につけます。アポロとアテナも、いろんな場面で出てきて戦線はアカイア軍とトロイ軍の間を行きつ戻りつします。
 ホロロスはここで、唐突にアキレスの不死の馬どもについて記述しています。 主を失った馬たちは心を乱して動こうとしません。ゼウスは彼らの嘆きのイナナキを哀れに思い、もう一度駆けられるよう力を与えます。ついにアカイア軍はパトロクロスの死体を確保して、トロイ軍に取り囲まれながらも陣地に向かいます。
 伝令がアキレスのところにやってきてパトロクロスの戦死を伝えます。アキレスはたちまち、打ちひしがれ、天を仰ぎ、地に涙して嘆きます。付き従っている女たちも同様です。アキレスの嘆きの声があまりに大きいので母のテティスが海の底から聞きつけて何事か?と現れ、アキレスは事の次第を告げます。そしてヘクトールを殺すことを誓います。テティスは悲しみに暮れて、「もし、そうすれば貴方もそのあと、死ぬことになるのよ」と説きますが、アキレスは「かまうものか!俺はパトロクロスの復讐をするんだ!」と言い張ります。ではと、テティスは「だけどヨロイがないじゃないの?」と言い、「あたしがヘファイストスに頼んであげる」「このヨロイができるまでは戦いに出てはダメよ」とアキレスに約束させます。
 一方、パトロクロスの死体をめぐる戦いは、まだ最中です。アヤックスの最善の努力で防ぎますが、ヘクトール率いるトロイ軍が逃げるアカイア軍から今にも死体を奪い返しそうになります。ここでまたアイリスがヘラの使い走りでアキレスのところにやってきて、「トロイ軍の前に姿を現して脅し上げないとパトロクロスの死体は無事に戻らないわよ」と伝え、アキレスも姿を現すだけならテティスとの約束を破ることにはならない、と承知します。
 アキレスは今は破れた防壁のてっぺんに上って、三度、雄叫びを挙げます。トロイ軍はその力強い雄叫びを聞いて彼を見つけて恐れをなして算を乱します。かくてアキレスはパトロクロスの死体を運び去る時間を稼ぎます。ヘラはそこで太陽を沈ませて戦いの一時のおさまりを長引かせてパトロクロスの死体が無事にアカイア軍の陣地に戻るようにします。(雑兵は別として名のある武将の死体を敵に渡さないことは重要な名誉に関わることのようです。日本でもそうだったでしょうけど。
 トロイ軍の陣地では賢明なポリダマスが「トロイの町に退却して守りを固めよう。アキレスが出てきたということは兵士の死を招くだけだ」と進言します。しかしヘクトールはこのポリダマスの智恵を馬鹿にして、イリウムの地に踏み止まって戦うことを主張します。(ホメロスはこれが重大な間違いだった、と記しています。
 一方、アキレスは徹夜でパトロクロスの通夜をします。そして「パトロクロスの戦死への復讐として、かならずヘクトールを殺して十二人のトロイの高貴な戦士をへの犠牲として捧げる」と誓います。オリンポスではテティスがヘファイストスのところに着いてアキレスのためのの鎧作りを頼みます。ヘファイストスは承知します。(ホメロスはここで鎧、特に楯について詳しく描写しているらしいのですが、例の三本足のトリスケルは言及されていないようです。)とにかくテティスはその鎧をアキレスのところに持ち帰ります。テティスはまた、アキレスがパトロクロスの死体を彼がヘクトールを殺すまで腐らないようして置くことを約束します。
 アキレスはアカイア軍を呼び集めて「とりあえず、怒りはさておいて戦う」と告げます。オデッセウスが主張して他の諸王たちとの食事の席につきますが、彼はパトロクロスの復讐にはやって食事が喉に通りません。アテナはアキレスが戦いの最中に空腹で困ることのないよう、他の者がが食べている間にこっそりアンブロシア ambrosiaを食べさせます(近頃はこの名前の店やデザートなどもあるようですが、本来はギリシャの神々だけが食べる不老不死になるとも言われる食べ物です。なぜかブタクサも同じ名前ですけど。ギリシャではヨモギの類を薬草として珍重していたのでしょうか? もしかしたらブタクサにすごい薬効があるかも知れません?) ともかく宴は終わりアカイア軍は戦闘に備えます。
 アキレスは戦車のところに行き、馬たちと短い会話をします。この馬たちはパトロクロスの喪に服しているらしいのです。アキレスは彼らを起こして「ちゃんと役目を勤めるのだぞ」と言い渡したというわけです。馬の一人が言います。「勤めは果たします。ですが貴方の死期が近づいています。それが来るのは私たちのせいではありません」 アキレスは運命は感じたようですが「そんなことは気にしなくて良い」と頼んで雄叫びとともに戦場に駆けいります。

神々の戦闘参加

 ゼウスは神々を呼び集めて「今やアキレスが戦っている。ものごとは正しく進んでいる。」とすべての神々に戦いへの参加を解禁します。ヘラ、アテナ、ポセイドン、ヘルメス、それにヘファイストスもアカイア軍に加勢します。一方、アレス、アポロ、アルテミス、レト、クサントスとアフロディテはトロイ軍の加勢に出ます。(クサントス Xanthosはアキレスの例の馬の一人の名前でもありますが、ディオニソス・クサンソス(ローマ神話ではバッカス)かも知れませんが、この後の成り行きを見ると川の神のようです。)ここに人間どもの戦いから遠ざけられていた神々が、未だかつてない神々どうしの戦いを始めることになります。この間にアキレスが彼を恐れるトロイ軍をなぎ払って戦運は傾き始めます。
 アポロはエーネアスのところに行き、アキレスと戦うように、と言います。これを見てヘラは戦いの中に入ろうと思いますが、ポセイドンは「今はただ見ているだけにして、アポロとアレスがアキレスを邪魔したら動くことにした方がいい」と、この二人は退いて戦況を眺めます。
 エーネアスとアキレスが出会って言葉を交わします。エーネアスは彼の血筋を長々と名乗ります。それから戦いです。アキレスの方が戦士としては上で、エーネアスをまさに殺そうとするところでしたがポセイドンがエーネアスはまだ運命の時は来ていないと情けをかけて、救い出します。そしてエーネアスに「アキレスとはもう戦うな、あっちが数段上だ」と告げます。
 アポロも戦闘の最中に降り立って、同じようにヘクトールに「アキレスと一騎打ちで戦ってはならない。」と警告します。ところがヘクトールとアキレスは戦場で出会います。アキレスはヘクトールに目がけて突進しますが、三度ともアポロが邪魔に入ります。アキレスは、ちょっとの間、諦めてほかのトロイ軍の攻撃に回ります。
 トロイ軍はアキレスの前に総崩れになります。アキレスは軍を二手に分けて半分をトロイの町の外に流れるクサンソス川に向け、そこでトロイ兵をなで切りにし、パトロクロスの追悼のためと言っていた十二人の若い戦士を捕虜にします。クサンソスはトロイ側についている神です。彼は人の姿になってアキレスに「トロイ軍をこれ以上殺すのはやめろ、特にその死体で川をせき止めるのは気に入らぬ」と告げます。でもってアキレスは、水辺からは離れますが、なおもトロイ軍を斬り殺し続けます。川はアキレスを襲います。実際、波となって襲いかかり、あわや彼を溺れさせようとします。アキレスは神々の助けを求め、ポセイドンとアテナが降り立ってきて「心配するな、ちゃんと守ってやるから」と告げます。そしてアキレスに力を与え、アキレスは波を突破してさらにトロイ軍を殺します。ここで川・クサンソスは兄弟のシモエイス Simoeisを呼んでアキレスを殺そうとします。がしかし、彼らが何もできないうちにヘラに頼まれたヘファイストスが大きな野火を起こして川を沸き上がらせます。クサンソスはやむなくアキレスには関わらないことを約束し、ヘファイストスは火を鎮めます。この神どうしの暴力沙汰を見て他の神々も喧嘩、狼藉に走ります。アポロはポセイドンを軽蔑して戦うのを拒絶します。ヘラはアルテミスを「あんた、生意気よ!」とぶちます。
 人間の方の戦いですが、アキレスはトロイ軍を町まで追い戻し、今にもトロイは陥落しそうになります。しかし、アポロがアキレスを誘い出して町から遠ざけてトロイ軍は城壁に入って門を閉ざします。

ヘクトールとアキレスとの宿命の戦い

 トロイ軍がすべてトロイの城壁のなかに逃げ込む中、ヘクトールはアキレスと戦う決心をして門の外に待ちます。彼の父と母は「アキレスと戦えば間違いなく殺される」と、中に入るように頼むのですが、彼は断固、断ります。彼はポリダマスの進言を採用しなかったことを恥じているのです。そして、そのために多くのトロイ兵がアキレスに殺された責任も。彼は自分の名前を汚さないためには、たとえ敗れて死ぬことになってもアキレスと戦うほかない、と決めたのです。
 こちらはアキレスの方、アポロがその前に姿を現し、彼を町から遠く誘いだして侮ります。アキレスは頭にきて「神を負かすことができるのだったら、アポロなんか殺してやるのに」と言い放ち、怒り狂ってトロイの方に駆け戻ります。
 ヘクトールはアキレスが実際に近づいてくると恐れが襲い、逃げ出します。アキレスは追いかけます。速さはほとんど同じで、城壁の周りを三回も回ります。ゼウスはヘクトールを見下ろして気の毒になります。しかしアテナは「ヘクトールは運命の時が来ているのだから、ここで干渉するのは許されないことよ」と注意します。ゼウスはやむなくアテナにアキレスに協力することを許します。アテナはトロイの町に降りて行ってアキレスに「ヘクトールをだますから待ってなさい」と告げます。彼の弟のデイフォボス Deiphobosの姿をとって現れ、アキレスとの戦いの助太刀に来たと告げます。ヘクトールはかたじけないと礼を言い、偉大なアカイアの戦士に向き直ります。
 戦いに先立ってヘクトールはアキレスに対して「どちらが勝っても、鎧ははぎ取っていいが、死体には決して無礼な行為をせずに返すことを誓約しよう」と申し出ますが、アキレスは立腹のあまり、この申し出を「人間とライオンとの戦いに誓約などあるものか!」とにべなくはねつけます。
 まずアキレスが槍を投げますがはずれます。するとアテナが、その槍を戻してよこします。次にヘクトールが槍を投げますが楯でそらされます。ヘクトールは振り返って弟に代えの槍を頼もうとしますが、そこには誰もいません。この期におよんでヘクトールは神が彼をだましたことに気付き、死する運命の時が来たことを悟ります。死ぬなら勇敢に、と彼は剣を抜いてアキレスに飛びかかっていきます。そしてアキレスはヘクトールの首に致命傷を与えます。
 今はひん死のヘクトールは最後にもう一度アキレスに「家族がしかるべき弔いができるよう死体は返してくれ」と頼みますが、アキレスは「貴様の死体は犬にでも食わせてやる!」と一片の情けもかけません。最後の時を迎えてヘクトールは「この戦いの後にパリスとアポロが必ずや、お前を殺すことになるであろう」と臨終の予言をします。そしてトロイの英雄は息を引き取ります。アキレスは「ゼウスが死を給わるなら何時でも受けよう」と言い放ちます。
 残りのアカイア軍は駆け寄ってヘクトールの死体に槍を突き刺し、アキレスは死体から、もともと自分のものだったヨロイをはぎ取ります。トロイの人々はみなヘクトールの死をうけて喪に包まれます。プリアムとヘクバの両親は、長い悲痛な弔辞を述べます。プリアムは「自分が行ってアキレスから息子の死体を返してもらうよう頼もう」と言います。アンドロマケは家にいたのですが、嘆きの声を聞きつけて外に出てきて、事の次第を聞きます。彼女は泣き崩れ、夫を亡くした自分自身と父を亡くした幼子、アスティアナクス Astyanaxを嘆いて悲嘆の言葉に暮れます。

 アカイア軍は陣地に戻り、戦いの日の後の休息をとります。しかし、アキレスと付き従うミュルミドーンは戦車の後ろにヘクトールの死体を引きずってパトロクロスの死体の回りを三度まわってから、短い弔いの式を行います。その後、アキレスはアガメムノンに呼ばれて、しぶしぶ行きますが、アガメムノン王が用意した湯浴みは「パトロクロスの死体をしかるべく火葬して墓を作り、自分の頭を丸めるまでは、許されないことだ」と断ります。(頭を剃る、と書いてあります。

 ほかのアカイア勢は眠りにつきますが、アキレスは通夜のために浜辺にでます。しかし、彼も疲れ果てていて眠り込んでしまいます。夢にパトロクロスの亡霊が出てきて「俺のことを忘れたのか」と非難します。そして「自分たちは無二の親友だったのだから、自分とアキレスとを共に埋葬してくれ」と頼みます。アキレスは亡霊を抱擁しようとしますが、消えてしまい、目が覚めます。そしてアカイア軍は木々を集めて高く積んでパトロクロスの葬礼の準備にとりかかります。アキレスは例の捕虜にした12人の若いトロイ郡戦士をはじめ、馬や犬など多くの犠牲を捧げます。また、一房の髪の毛を火の中に投じます。(これで頭を丸めたことになるのでしよう。) そしてアキレスは風の到来を祈ります。アイリスがこの願いを風の神々に取り次ぎ、風が起こり夜を徹して火は燃えさかり、アキレスは夜どおし通夜をします。
 この通夜の間中、アキレスはヘクトールの死体に非道の限りをつくしますが、アフロディテとアポロがヘクトールをこの非道から守ります。彼の死体は腐ることもなく、アキレスが馬の後ろにつけて引きずっても傷つきません。それからアキレスはパトロクロスを祈念して競技会を催します。一つ一つの競技には勝者にアキレスが自分の所持品を褒美として与えます。すべてパトロクロスの名誉のため、ということです。最初の競技は戦車競争で、これは、誰が賞に値するか、競技が公正に行われたか議論のあったところですがディオメデスが勝ち取ります。次は拳闘とレスリングで、オデッセウスと大アヤックスが引き分け、大アヤックスとディオメデスは引き分けです。その次は重い陶製の円盤投げ、弓、投げ槍(これはアガメムノンが、その権力のゆえに無条件で賞を得ます。)などです。(オリンピックにはこういう殺伐な起源もあることを初めて知りました。

悲しみのトロイ

 その夜、アキレスは眠れません。彼はまたもヘクトールの死体を引きずってパトロクロスの墓の周りを三度まわって心を落ち着けようとします。アポロはこれを見て嘆き、神々の集まりでアキレスからヘクトールの死体を救い出すよう諮ります。これにはゼウスも同意し、テティスにアキレスにところに伝言に行かせ、「プリアムが自分の息子を引き取りに来たら、その願いを聞くように」と伝えさせます。ゼウスはそれからプリアムのところにもアイリスを使いに出し、「息子の体を返して欲しければ、アキレスのところに、従僕を一人だけ連れていくように」と伝えます。プリアムはヘルメスが姿を変えた従僕を伴ってアキレスのところに行き、アキレスは約束通りに譲歩します。この場では二人の男はお互い、丁重かつ上品に振る舞います。アキレスはプリアムに「息子さんの喪に服するのに何日必要ですか」と訊ね、プリアムの言うとおり、9日間の休戦に同意します。ヘルメスはプリアムをせかして真夜中にアカイア軍の陣地を抜け出してトロイの町まで案内します。
 トロイではヘクトールのための大葬式が執り行われます。最初にアンドロマケが喪主として、彼女とその息子の嘆きの言葉を述べ、次には王妃 ヘクバが悔やみを述べ、次がヘレンです。そうして通夜をし、木々を集めて9日間の間、火を焚きヘクトールを火葬して、しかるべく祭礼を挙げて埋葬します。

 

 イリアドは、この場面までで終わります。このあとも、いろいろな後日談が別の物語として語られますが、
アキレスはどうなるのか?、彼はアポロの手引きでパリスが、急所の踵を弓で射られて死にます。
ヘレンはどうなるのか、パリスも殺されて、ヘクトールの弟のデイフォボスの妻になり、そのデイフォボスはメネラオスに殺されて、メネラオスの許に戻ります。この時、ヘレンが手引きしたという話もあります。メネラオスが死んだ後にどうなったかは二つの物語があって、島流しになったというのとオリンポスに引き上げられたというのとあるようです。メネラオスとヘレンの間には娘が居て、それがハリーポッターに出てくるハーマイオーネ Hermione、ギリシャ風に読むとヘルミオネーです。
ヘクトールの妻、アンドロマケはどうなったのか? まず息子はアキレスの息子のネオプトレムス Neoptolemusによって城壁から投げ落とされてあえない最後を遂げます、そしてアンドロマケはネオプトレムスの妾になります。年令の関係はどうなっているのか気になりますが。そのネオプトロムスも先立つのですが、今度はヘクトールの弟のヘレヌス Helenusに嫁いで エピルス( Epirus バルカン半島の南西部にあったとされていますが、?です)の王妃になります。可哀相な運命ですが、この時代というか、ギリシャの物語では女性は男より長生きして何度もチャンスがあるようです。美女であることが条件でしょうけど。

 ギリシャの神々は実に人間くさい神々です。ゼウスは一番、力があって偉いには違いないのですが、その威令は必ずしも行き渡っているわけではありません。最高神には違いないのですが、ヘラとのやりとりは陰でこそこそやる恐妻家のイメージです。一番人間くさい神といってもいいようです。神々は決して正義の味方というわけではなく、公正であるわけでもありません。アキレスとヘクトールの戦いはどうみても公正とはいいかねます。あまり偉いとは思えない神々ですが、怖いのは、不吉な予言をすると必ず当たるというか、「当たらずば当てて見せよう」と汚い手も辞さないところがあります。このような不条理な神は、とにかく御機嫌を損ねないよう崇めておくほかないでしょう。それにしてもイリス=アイリスはいつも使い走りで忙しいようです。人間のアキレスの用足しまでしています。
 神々の預言はかならず当たりますが、人間もひとかどの人物になると、死ぬ間際の預言とか呪いの言葉は実現することになっているようです。ヘクトールに預言は当たります。ギリシャ神話ではそのような場面はほかでも見られます。ヘクトールはイリアドの中では一番の英雄と言ってもいい人物で特別でしょうが。アキレスはミュルミドーンという妖怪の仲間ともされる部下を引き連れた野蛮な乱暴者のイメージです。そんな化け物みたいなのと対戦すれば逃げ回っても英雄の名に傷はつかないでしよう。

 ざっとこんな具合で、一応、冒頭の絵はイリアドのクライマックスの画面ということでしょう。

 「アキレスの墓 場所」というキーワードでこのページがヒットしたようなので調べてみましたが、一応は今はトルコになっているトロイにあったようです。アレキサンダー大王の映画では凱旋してきたアレキサンダーがトロイでアキレスの墓に参ったことになっています。しかし、この調べたサイトの前半には、遺体は火葬してその灰はパトロクレスのものと一緒にして共同墓地に葬られたとあり、見つけることが出来たのか?疑われます。ここがそうだ、という場所はあったのかも知れません。今となっては確認できないでしょう。